新渡戸に学ぶ 1

 

 

指導実践

創意工夫を生かした特色のある学校づくり

−恵まれた地域教育素材の活用−

 

矢沢中学校校是

 

実践の概要

教育課程審議会の答申では、教育課程の基準の改善のねらいの第4の柱として「各学校が創意工夫を生かし特色ある教育、特色ある学校づくりを進めること」をあげている。学校の創意工夫は、子どもの実態、学校の実態、地域の実態に由来するものであり、とくにも総合的な学習の時間においては、地域の教育素材を活用し、地域を手がかりに学習活動を展開するというような、その学校ならではの創意工夫をめぐらすことが求められている。

 

 本校(校長 及川 巌、生徒数274名)では、平成10年度より恵まれた地域教育素材を活用した学習活動を、総合的な学習へのアプローチとして実践している。

 

 本校の校是 「本 立 末 治」 モトタチテ スエオサマル (物事の根本、基礎基本を掌握することによって、自ずと結果が良くなる) は、大正14年、矢沢尋常高等小学校新築落成式に当たり、当時国際連盟事務局次長であった新渡戸稲造博士から寄贈されたものである。

 

 新渡戸家は稲造博士の父(十次郎)の代までここ矢沢の地に230年にわたって、南部盛岡の支藩花巻の藩士として居住していた。この関係から平成3年に本校に隣接して 「花巻新渡戸記念館」 が建てられた。

 

 また、本校学区内に 「宮沢賢治記念館」 や 「宮沢賢治イーハトーブ館」 があり、極めて多くの偉人とゆかりのある土地である。

 

 その偉人たちの業績や生き方からは多くの教訓を学び取ることが出来るであろう。しかし、この地区に生まれ育ちながらも、多くの生徒達はそういった先人について名前を知っている程度であり、疎遠な存在であるのが現状である。

 

 この実践は、郷土の先人に関して地域の文化施設・人材の活用や生徒への指導方法を工夫し実践することにより、生徒のよりよい生き方をめざす態度の育成に役立てようとするものである。この 「先人に学ぶ」シリーズの取り組みを通して、生徒の生きる力を育もうとしている。

 

 

T 「先人に学ぶ」シリーズの構想

 この実践は花巻そしてここ矢沢の恵まれた地域教育素材の活用と、新渡戸稲造博士による「本立末治」という本校校是を生かした教育活動の展開を通して、特色ある学校づくりをねらい、平成10年度から始めた取り組みである。

 

 平成8年7月の中央教育審議会の第1次答申には、これからの子どもたちに育てていく資質能力は「変化の厳しい社会を生きる力」にあると方向づけた。そしてこの「変化の厳しい社会を生きる力」は「自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え主体的に判断し行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」であるとした。

 

 各学校における創意工夫をした特色ある学校づくりの核は「総合的な学習の時間」ととらえた。この「総合的な学習の時間」の取り組みを通して、「変化の厳しい社会を生きる力」の育成が図られるとの考えから、平成14年からの実施へ向けて、そのアプローチを次のように考え、10年度から「新渡戸に学ぶ」シリーズを総合学習で行ってきました。

 

 なお、道心とは新渡戸稲造先生が、武士道を広く世界に紹介したときに用いられた言葉で、武士道の心という意味。「道心に学ぶ」では、

武士道を中心に、日本の諸道(茶道・華道・装道・武道等)からその心を学ぼうとするものである。

〜総合的な学習の時間へのアプローチ〜(先人に学ぶの基本構想)

平成10年度 (新渡戸に学ぶ1)

「学 ぶ」    ↓

平成11年度   (道心に学ぶ2)

「学んで考える」 ↓

平成12年度 (新渡戸に学ぶ3)

「自ら学び、考える」

平成13年度 (新渡戸に学ぶ4)

「テーマは5月確定」

U 「新渡戸に学ぶ」の実践 

これまでの歩みから

 1 講演会の実施

(1) 第1回講演会  平成10年7月4日

   テーマ 「新渡戸を学ぶ、新渡戸に学ぶ」

   講 師   花巻新渡戸記念館長 菅忠孝氏

新渡戸一族と花巻(矢沢)との関係や稲造の生い立ち、経歴や実績にふれながら稲造の思想について、その著書「武士道」からの引用を用いて生き方について示唆に富む講演をいただいた。

<第一回講演会>

 

(2) 第2回講演会  平成10年8月26日

   テーマ 「宮沢賢治の世界」

   講 師 宮沢賢治イーハトーブ館 館長 原 子朗氏

早稲田大学の名誉教授であり、インドのネール大学でも教鞭を執っていた原館長は自然を愛し、農業を愛し、人間を愛した宮沢賢治の 少年時代からの考え方・生き方をネール大学での体験を交えながら、中学生にもわかりやすく話していただいた。

 講演会終了後、原館長揮毫の賢治の詩「雲の上の信号」の一節の扁額を寄贈いただき矢沢中学校の宝のひとつとなる。

「雲の上の信号」の一部  

(3) 第3回講演会  平成10年9月8日

テーマ 「21世紀の生き方」

  講 師  花巻市教育委員会 前教育長 佐藤重利氏

佐藤前教育長(矢沢地区在住)からは、現代社会の問題点と、そのその問題点を克服しやがて迎える21世紀を担っていかなければならない、若者としての心構え、生き方について教育者の立場から説いていただいた。

 

(4) 第4回講演会  平成10年9月30日

     テーマ 「佐藤昌介と島善鄰の足跡」

   講 師   花巻市文化財調査員 佐藤昭孝氏

北海道開拓の父と呼ばれた花巻市出身の佐藤昌介、リンゴの神様の島善鄰は高木小学校・矢沢高等尋常小学校に在籍し、幼少時代をこの矢沢でおくっている。ともに北海道大学の学長を務めたことを中心に、それぞれの花巻とのかかわりと、その業績を紹介していただいた。

 このことが、東雲祭(文化祭)での展示発表の際の本校生徒と北海道大学の丹保憲仁総長との交流という動きに発展した。

 また、島善鄰氏揮毫による「照一隅」の扁額が校長室に飾られている。

「照一隅」

 

(5) 第5回講演会  平成10年10月29日

      テーマ 「萬鉄五郎の作品とその人生」

   講 師   萬鉄五郎美術記念館 館長 千葉瑞夫氏

矢沢地区と隣接する東和町出身の画家萬鉄五郎の作品をスライドで紹介しながら、その作品が生まれた背景や、ひとつひとつの作品の鑑賞のポイントを話していただいた。それを通して萬鉄五郎の信条や苦悩が伝わってきて、人間としての生き方について考えさせられる講演であった。

 

 2 学習ノートの作成

講演を聞いて終わりということにはならないよう、その内容に自分なりの感想や意見をもてるようにするため、学習ノート「新渡戸に学ぶ」を自作し、生徒一人一人に持たせ、講演の感想や調査の記録を記入するようにした。記入項目は次のとおり。

・校是「本立末治」を調べよう。

・なぜ新渡戸稲造に学ぶのか。

・新渡戸稲造はどんな人。

・新渡戸稲造の今月の言葉。

・講話に学ぶ。(5回の講演会感想を記入)

・新渡戸稲造への疑問(花巻人物誌「揆奮」の活用や花巻新渡戸記念舘で調べてみよう)

・新渡戸稲造の生涯(年譜)

なお、ノートは講演会終了後や夏休みに記入し担任に提出、担任はコメントを書き返還する。

 

「新渡戸に学ぶ」「道心に学ぶ」

学習ノート

 

3 毎月の新渡戸稲造の言葉

 毎月、新渡戸稲造著の「一日一言」より校長がその時期にふさわしい言葉を選び、全校朝会で紹介し、各教室に色紙に書いた言葉を掲示した。(資料1)

 生徒はこれらをもとに、学習ノートに言葉とその意味を記入した。

 

4 文化祭における調査研究活動

 東雲祭(文化祭)の展示テーマを生徒会で検討の結果「先人に学ぶ」とし、各学級ごと、講演会で聞いた新渡戸稲造・宮澤賢治・佐藤昌介・島善鄰に関する調査活動を行い、その結果を文化祭で展示発表した。

〜各学級の展示テーマと展示内容〜

1A「宮澤賢治の世界、心・願い〜」

 ・羅須地人協会の模型の作成

 ・代表的な童話の紹介(模造紙で)

 ・賢治アニメの上映・賢治の年表

1B「新渡戸稲造」

 ・巨大な5000円札・家系図の作成

 ・花巻と稲造のつながり

 ・稲造のプロフィールと年表の作成

1C「島善鄰の業績」

 ・年表・堰袋公園の石碑の模型

 ・花巻に残した善鄰の書の複製

 ・リンゴの品種改良についての調査

2A「太平洋の架け橋」 新渡戸稲造

 ・稲造の胸像の作成

 ・学級みんなの夢をのせた架け橋

2B「イーハトーブと賢治さんの夢」

 ・羅須地人協会の模型と調査結果の紹介

・北海道大学総長との交流

2C「飛べ賢治 〜メルヘンの国へ〜」

 ・切り絵細工による童話の登場人物

 ・童話の世界の寡囲気を再現

3A「リンゴスペシャル」 島 善鄰

 ・リンゴの木とリンゴの種頼の調査

 ・島善鄰の業績・リンゴのクイズ実施

3B「花巻の先人コンビ」賢治と稲造さん

    三本木原開拓事業について

    宮沢賢治記念館の紹介・胸像の作

3C新渡戸傳の世界 〜稲造の祖父〜

 ・開拓事業に関する水田のアラカルト

 ・稲作風景のジオラマ 春夏秋冬風景

資料1 毎月の新渡戸の言葉

 

5 北海道大学丹保憲仁総長より色紙届く

 この東雲祭の取り組みのなかで、2年生のクラスで北大総長に、新渡戸稲造・佐藤昌介・島善鄰と北海道大学の関わりを手紙で尋ねたところ、返事の手紙(資料2)と下の3枚の色紙をいただいた。

 

 

平成11年度 新渡戸の言葉

 

資料2 北大総長丹保憲仁先生からいただいた手紙

 

V 「道心に学ぶ」の実践

 1 講演会の実施

 (1) 第1回講演会  平成11年7月3日

     テーマ「装道に学ぶT」礼儀作法を学ぶ

   講 師 装道礼法着物学院学院長 菊地涼子さん

自分の心の中に優しさを持ち、洗練された振る舞いを身に付けてほしい 愛・美・礼・和の心を持った礼儀作法は人生の宝となるとの講話の後、会釈礼・尊敬礼・敬愛礼などのおじぎの仕方や座り方や立ち方など手本を示しながら指導をいただき、正しい礼儀作法を学んだ

 (2) 第2回講演会  平成11年7月12日

   テーマ 「茶道の世界」 

    講 師  表千家教授 佐藤京子さん

栄西・千利休・もてなし・茶事・一期一会・和敬静寂といった茶道の用語、茶道の心についてのお話をうかがい、実際にお茶を点てていただき、お茶の心の一端を学んだ。佐藤先生は地元矢沢公民館で茶道を指導している方である。

 

今後の講演予定(原稿8月初旬執筆のため)

 (3) 第3回講演会  平成11年8月23日

   テーマ「装道に学ぶU」

   講 師 装道礼法着物学院

          学院長 菊地涼子さん

9月初旬に体育祭を予定しており、そのプログラムのなかで「矢中音頭」を浴衣で踊るため、その浴衣の着方指導をいただいて装道の心を学ぶ

 

(4) 第4回講演会  平成11年8月30日  

   テーマ 「武士に学ぶ」

   講 師  晨武館 館長 菅崎吉雄氏

花巻で剣道の指導をされている、元中学校長をなされた菅崎吉雄先生に剣の道について居合の実技をまじえてお話を聞く

 

(5) 第5回講演会  平成11年9月13日

   テーマ「新渡戸稲造と武士道」

   講 師 花巻新渡戸記念館長 菅忠孝氏

100年も前に英文で書かれ海外で日本人理解の本として読まれている「武士道」日本人の精神の基盤は「武士道」にあり というその所以を館長に聞く

 

(6) 第6回講演会  平成11年10月2日

   テーマ「人の道」

   講 師 人権養護委員  鎌倉玄悦氏

人権養護委員として永い間、少年刑務所で人生について説話されてきた地元花巻の住職である鎌倉玄悦氏に、人間の生き方・人の道についてお話をいただく。

 

2 学習ノート

昨年度につづき学習ノート「道心に学ぶ」を作成し、講演の記録や調査の記録をそして今年度は、それぞれのテーマに自分の考えや体験したこと、感想を書く欄を設け、「学んで、考える」ことを意識した取り組みを行っている

 

3 新渡戸稲造の言葉(平成11年度)

  4月  意思は人なり

  5月  人の欠点を指摘する要はない

  6月  事を決するは断行である

   7月   外見を飾る心はよろしきを得れば礼儀作法となる 

よろしきを過ぎてはいけない

8月  夏 暑ければこそ 稲 繁る

 4 調査研究活動

・学習ノートには、校長室や新渡戸記念館、そして学区内の石碑等で調べられる質問をあげ、長期休業中の課題として扱っている。

・今年度もこの学習の調査研究の場、そして

 発表の場として、東雲祭(文化祭)を予定しており、現在生徒会でそのテーマ(学年テーマ、学級テーマ)を選定中である。

 

W 生徒の変容と今後の課題

1 生徒の変容

1)生徒の感想

 Q 昨年「新渡戸に学ぶ」の講演会を5回行いましたが、その感想を教えてください。

 ◎私ははっきり言って、新渡戸稲造さんが何をしてきた人なのか全くといっていいほ

ど知りませんでした。でもこの「新渡戸に学ぶ」という講演を聞いて、私は驚きました。なんでこんなみぢかな所にこんな偉大な人と関係があったのかと。(3年女)


Q 今年「道心に学ぶ」の講演会を2回行いましたが、その感想を教えてください。

 ◎装道、茶道とも奥が深く興味深いものだった。特に「装道に学ぶ」では、外見だけではなく心や言葉使いからという先生のお話に、基本的なことなのに気にもとめていな

かっただけに深く反省した。実技指導では、普段何げなく使っている礼の仕方をいちか

ら教わった。相手や場合によっていろいろな礼があることを初めて知り、礼や言葉のひとつひとつにも自分自身気を配り、使いこなせるようにしたいと思った。(2年女)

 

Q 毎月校長先生が紹介している「新渡戸の言葉」についてどう思いますか。

 ◎今までは新渡戸博士の言葉には触れる機会はなかったが、中学生になって校長先生

の紹介や解説で理解まで出来るようになった。新渡戸の言葉は、深い意味を持っていて素晴らしい言葉だと思った。日常生活のなかで経験したようなものもあり、なるほどと感心するものが多かった。(2年男)

 

2)生徒の様子

校是を正しく読める。意味が理解できる。校是と新渡戸稲造先生との関係が分かる生

徒が増えてきている。なぜ新渡戸を学ぶのかという事の理解が進んできているのが、学習ノートの記入内容からうかがうことができる。

 また、東雲祭における発表において、生徒たちが、地域の素材を掘り起こし、様々な方法で調査し、学級の展示発表という形で地域に発信することができたことは、この学習での大きな成果である。

 

2 今後の課題

 10年度1学期に、これだけの教育素材に恵まれている矢沢中学校で何か出来ないかとの発想からスタートした取り組みである。

 新学習指導要領の内容が明らかにされていくにしたがい、総合的な学習の時間や各学校の創意工夫を生かした特色ある教育、特色ある学校づくりに、この先人に学ぶシリーズがまさに矢沢中学校としてベストの選択ではないかと感じ、取り組んできた。

 今後、このシリーズの完成年度(平成12年度)のテーマ設定や、今まで全校を対象にしたプログラムから、学年に対応した取り組みをどう進めるか、移行措置期間をどのように進めていくかなど、14年度の新教育課程下での、「総合的な学習の時間」にスムーズに移行することを視野に入れて、教職員のみならず、企画段階から生徒を何らかの形で参加させるなどの、新渡戸を学ぶ中学校として教師と生徒が一体となった取り組みに発展させていきたいものと考えている。

 

              平成12年度時 

                     教頭 嶽間澤 茂 文責              

 

 

岩手県立総合教育センター発行「教育研究岩手」No.82(1999.11)にて発表。

 

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