応急手当の基礎知識
1 応急手当と救命処置
私たちは、いつ、どこで、突然のけがや病気におそわれるかわかりません。そんなときに、家庭や職場でできる手当てのことを応急手当といいます。病院に行くまでに応急手当をすることで、けがや病気の悪化を防ぐことができます。
けがや病気の中でも最も重篤(じゅうとく)で緊急を要するものは、心臓や呼吸が止まってしまった場合です。心筋梗塞(心臓の病気)や脳卒中(脳の病気)などは、何の前触れもなく起こることがあり、心臓と呼吸が突然止まってしまうこともあります。プールで溺れたり、喉にお餅を詰らせたり、あるいは、けがで大出血したときも、何もしなければやがては心臓と呼吸が止まってしまいます。
ついさっきまで元気にしていたのに、突然、心臓や呼吸が止まってしまった。そんな人の命を救うために、そばに居合わせた人ができる応急手当のことを救命処置といいます。
2 心臓や呼吸が止まってしまったら
(1)救命曲線の図
心臓や呼吸が止まった人の治療はまさに1分1秒を争います。図1を見てもわかるように、心臓や呼吸が止まった人の命が助かる可能性は、その後約10分の間に急激に少なくなっていきます。このようなとき、まず必要なことは「すぐに119番通報する」ことです。119番通報が早ければ早いほど、病院に早く到着できます。また、病院に到着するまでの間も救急隊員による救急処置をより早く受けることができます。
しかし、それだけでは十分ではありません。救急車が到着するまでには全国平均で6分以上かかります。もし、救急車がくるまで手をこまねいていては、助かる命も助けられないことになります。そこで、そばに居合わせた人による救命処置が必要になるのです。
(2)救命処置の手法
救命処置の具体的手順は次のセクションで詳しく説明しますが、ここでは救命処置のうち、「心肺蘇生(しんぱいそせいほう)」と「AEDの使用」について簡単に説明します。
その1
心肺蘇生法とは、胸を強く圧迫したり、息を吹き込むことによって、止まってしまった心臓や呼吸の動きを助ける方法です。図1をもう一度見てください。命が助かる可能性は時間とともに減っていきます。そばに居合わせた人が心肺蘇生を行った場合には、その減り方がずいぶんとゆっくりとなっているのがわかります。心肺蘇生を行った場合には、行わなかった場合にくらべて、命が助かる可能性が大きく違ってきます。
平成17年度の総務省消防庁の調査によると、心臓や呼吸が止まってしまい救急車で病院に運ばれた人の生存率は、救急隊による心肺蘇生が3分以内に開始された場合に比べて、10分以上経過してからでは4割まで低下していましたが、市民による応急手当を受けた人の生存率は、応急手当を受けなかった人の場合に比べて1,4倍もありました。
その2
突然に心臓が止まるのは、心臓がブルブルと細かく震える「心室細動(しんしつさいどう)」によって生じることが多く、この場合には、できるだけ早く心臓に電気ショックを与え、心臓の動きを取り戻す(これを除細動(じょさいどう)といいます)ことがとても重要です。
AED(=自動体外式除細動器)は、この電気ショックを行うための機器です。コンピュータによって自動的に心室細動かどうかを調べて、電気ショックが必要かどうかを決定し、音声メッセージで電気ショックを指示してくれますので、一般の人でも簡単で確実に操作することができます。
心室細動になってから電気ショックを行うまでの時間が1分遅れるごとに、生存退院のチャンスが7から10%ずつ低下することが知られています。

最近では空港や駅、催し物ホール、デパートなど、いろいろな場所にAEDを備え付け、その場に居合わせた人によってAEDを活用してもらうことで、今まで医師や救急車を待っていたのでは助からなかったかもしれない人々の救命につなげることを目指す動きが広がっています。皆さんも駅などを通りかかったら図2のように設置されているAEDを探してみてください。そして、万が一、その付近で誰かが突然に倒れた場合には、このAEDを使用して救命に役立ててください。
3 救命の連鎖
心臓や呼吸が突然止まった人の命を救うには何をすればよいのかをまとめてみましょう。まず、119番通報をして、救急車が到着するまでの間に、救命処置、つまり心肺蘇生法を行い、AED(もし近くにあれば)を使います。救急車が到着したら、救急隊員に引き継ぎます。救急隊員は必要に応じて高度な救急処置を行いながら、病院へ向かいます。そして病院では専門の医師によってさらに高度な救命医療が行われることになります。
傷病者の命を救い、社会復帰に導くために必要となる一連の行いを「救命の連鎖」といいます。「救命の連鎖」は、[心停止の予防][心停止の早期認識と通報][一時救命処置][二次救命処置と心拍再開後の集中治療]の四つの輪で成り立っており、この四つの輪が途切れることなくすばやくつながることで救命効果が高まります。
「救命の連鎖」の最初の三つの輪は、現場に居合わせた市民により行われることが期待されます。市民により心肺蘇生法が行われたほうが、行われなかったときより生存率が高く、市民がAEDを使用し電気ショックを行ったほうが、救急隊の到着を待つことなく早く実施できるため、生存率や社会復帰率が高いことがわかっています。
4 突然死を防ぐために
突然、心臓や呼吸が止まってしまった人を救うためには、そばに居合わせた人が救命処置をすることが大事です。このような事態は何の前触れもなく、本当に突然訪れることもありますが、前触れがみられることも少なくありません。このような前触れに気がついて、心臓や呼吸が止まる前に119番通報をして救急車を呼ぶことができれば、助かる可能性が大変に高くなります。
成人の心臓や呼吸が突然止まる主な原因は心臓発作や脳卒中です。心臓発作は、冠動脈(かんどうみゃく)と呼ばれる心臓に血液を送る血管が詰ることによって生じます。冠動脈が詰ると、心臓に血液が行かなくなるので、そのままにしておくと急性心筋梗塞といわれる状態になります。急性心筋梗塞になると、大事な心臓の筋肉が死んでしまい心臓の動きが弱まったり、心臓が突然止まってしまう不整脈を起したりします。心臓発作の症状で一番多いのは、胸の真ん中に突然生じて持続する強い痛みですが、その痛み方は人によって異なり、胸だけでなく肩、腕やあごにかけて痛むこともあります。傷みをあまり訴えず、胸が締め付けられるような苦しさだけを訴えることもあります。重症の場合は、痛みだけでなく、息苦しさ、冷や汗、吐き気などがあり、立っていられずにへたり込んでしまうこともあります。
脳卒中は、脳の血管が詰ったり、破けて出血したりすることによって生じます。脳の血管が詰ると、脳に血液が行かなくなるので、そのままだと、脳梗塞といわれる状態になります。脳梗塞になると脳の神経細胞が死んでしまい、脳梗塞の部位によっては、体の片側に力が入らなくなったり、しびれを感じたり、言葉がうまくしゃべれなくなったり、ものが見えにくくなったりします。最悪の場合は、目が覚めなくなり、呼吸が止まって死んでしまいます。また、脳の血管が破けて脳の表面に出血するとクモ膜下出血という病気になり、生まれて始めて経験するような非常に強い頭痛に襲われます。クモ膜下出血は、繰り返して出血することが多く、その度に命の危険が増していきます。
心臓発作や脳卒中の場合は、少しでも早く病院に行って治療を始めることが重要です。自力で病院に行こうとすると、その間に悪化して致命的になることもあるので、何時でも急変に対応できるように、119番通報をして救急車で病院に運んでもらうほうが安全です。傷病者本人は 119番通報を遠慮することもありますが、上記のような症状が急に起こったら、強く説得して、ためらわずに119番通報をしてください。119番通報をしたら、救急車が来るまでそばで見守り、容体が変らないか注意していてください。万一、反応が無くなり、普段どおりの息も無くなったら、ただちに心肺蘇生法を開始してください。
子どもの突然死の主な原因は外傷、溺水(できすい)、窒息などですが、その多くは日常生活の中で十分に注意することで予防できるものです。心臓や呼吸が止まってしまった場合の救命処置も大事ですが、何よりも突然死を未然に防ぐことが一番効果的です。自動車のチャイルドシートや自転車やスポーツ時のヘルメット着用、水の事故への注意、小さな子どもの手の届くところに口に入る大きさのものや中毒の原因となるような薬品や洗剤を置かないなどの配慮が子どもを突然死から守ります。
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