花巻城本丸跡内容確認調査の結果をお知らせします(令和3年度)
令和3年度、花巻市教育委員会では花巻城本丸跡で内容確認のための発掘調査を実施しました。平成30年度と令和元年度に続いて3回目の調査です(過去の調査結果は下記のリンクをご覧ください)。
今年度は本丸御殿跡の3回目の調査を行いました。本丸御殿は盛岡藩主の御成りの場であり、盛岡藩の支城としての行政拠点でもありました。調査地点は本丸御殿の南西隅と北西隅の確認を目的に南側調査区と北側調査区の2箇所に分けて設定しています。調査期間と面積は次のとおりです。
令和3年9月1日(水曜)から11月19日(金曜)、352平方メートル
1 発見された主な遺構
(1)集石遺構(しゅうせきいこう)
礫が多量に入った土坑や、礫が集中して検出された場所を「集石遺構」と呼びました。これまでの調査でも見つかっている「本丸御殿の土台跡」や平面的な広がりを持つ性格不明の集石の2種類を確認しています。
本丸御殿の土台跡の集石(以下「土台跡」と呼称)
直径約50センチメートル~1メートルの円形気味の範囲に礫が密集しているものです。礫は[栗石]といい、礎石下の根固め石です。今回新たに37基を検出しました。特徴は次の点が挙げられます。
(ア) 規模が比較的均質で、形状は円形が大半である。直径1メートル程度のものが多い。
(イ) 土坑を掘って、中に礫を入れている。
(ウ) 礫の上面を平坦に整えるものがみられる。
(エ) 周囲に白色の粘土が確認されるものが多い。
(オ) 連続的な配列をするものは、中心間の距離がおよそ1.9メートルと均質である。
この特徴点については、それぞれ次の理由が考えられるのではないでしょうか。
(ア)上に載る礎石のサイズや形状がおおむね同じで、それに合わせているため。
(イ)礎石の重量で土台が沈下しないよう、土坑を掘って多くの礫を入れ補強したため。
(ウ)上に載せた礎石が安定するように整えたため。
(エ)栗石が動かないように土坑の周囲を粘土で補強したため。あるいは建替工事で礎石を動かした際に土坑の縁が崩れて弱くなったのを補修した。
(オ)御殿の設計図に合わせて均等な間隔を保って造られた結果。
本丸御殿の土台跡の分布状況
次の写真は調査区全体の空中写真です。写真右側が北方向です。
検出された本丸御殿土台跡の全体的な分布を見ると、南側調査区において長方形に配列する状況が確認できます。一方、南側調査区の南辺付近では土台跡が検出されず、無遺構地帯となっています。
北側調査区では、南北方向に連続分布する2本の土台列が検出されています。
平面的な広がりを持っている集石
次の集石遺構の写真は、南側調査区の南東部で検出されたものです。規模は、長さ9メートル以上×幅3メートル以上で、北西-南東方向に長軸を持つ不整な形状を呈しています。時期や性格は不明ですが、下部の石はしっかりと安定して動かない状態であることから、単純に近年の寄せ集めの石ではなく、御殿に関係した遺構である可能性もあります。
(2)小ピット群
南側調査区の中央付近で11基を確認しました。各ピットの平面形は円形を呈しています。規模は直径35~50センチメートル、深さ5センチメートル程度です。各ピットの間隔は約1.5メートルを基本とし、一つ飛ばしで約3.0メートルもみられます。内部から遺物が出土していないため時期は不明ですが、周辺の土台跡と同じ方向性で配列していることからみて、これらも御殿の土台跡の遺構である可能性が考えられます。数基を断ち割りした結果、柱穴状の掘り込みは確認されなかったことから、礎石が置かれていた痕跡ではないかとも考えられます。
この小ピット群が建物の遺構であるとしても、周囲にある集石の土台跡とは列が並ばず、ごく近接した部分も見られます。よって、小ピット群と土台跡とが同一建物を構成していたとは考え難い状態です。集石の土台跡は残存状況が良好で、本丸御殿の最終段階の遺構とみられることから、小ピット群はこれよりも古い時代の建物跡である可能性が考えられます。
2 発見された主な遺物
陶磁器類は、中世は中国産青磁碗の破片が2点出土しています。近世は、肥前産磁器、大堀相馬産陶器、在地産陶器などが出土しています。
瓦は、全て灰色の色調の[いぶし瓦]と呼ばれるものです。種類は、[丸瓦]と[平瓦]があり、城郭建築や寺社建築にみられる本瓦葺の建物に使用されていたものです。[丸瓦]が3点、[平瓦]が13点出土していますが、いずれも小破片です。本丸御殿自身が本瓦葺であったとみるには点数が少ないため、門や櫓など周辺施設の瓦だった可能性も考えられます。
和釘は、20点出土しました。軸の断面形が四角形の日本古来の釘です。本丸御殿の解体時に散乱した廃棄物だと推測されます。
3 発掘成果と絵図面との比較
平成30年度と令和元年度に行った発掘調査結果に関して、現存している本丸御殿の絵図面と比較してみても、発掘面積が狭いことが要因となり、建物のどの部分が発見されているのか確定することができませんでした。しかし、今年度に新たに得られた調査結果を加えることで、次のとおり位置関係を把握することができました。
(1)検出遺構の本丸御殿における位置
調査区航空写真からも分かるように、南側調査区では土台跡が長方形に配列する状況が確認されています。また、土台跡等の石が分布する範囲と調査区南辺部の無遺構範囲との対照が明瞭に確認されています。このような遺構分布状況からみて、石の分布の有無が御殿建物の内と外に対応し、長方形に分布する土台跡は、御殿の南辺の一部屋分に相当するものとみられます。具体的には、現存する絵図面の中で該当するのは「表御番所」(松川家資料「本丸御殿図」)、「御廣間」(花巻市博寄託「花巻城本丸図面」)、「御玄関」(花巻市博物館「御本丸間取絵図」など)です。いずれも同じ部屋の異称です。
なお、土台跡の分布範囲から南側の無遺構地帯へ向かっては、緩く傾斜していることも確認されています。南側が高さにして約10センチメートル以上低くなっています。「水はけ」や「排水」のため、本丸御殿の場所を周囲よりも高く整地している可能性があります。
北側調査区では、南北方向に連続分布する2本の土台列を確認しています。調査区の西側と北端部には土台跡がみられないことから、検出された土台列は本丸御殿の北西隅に相当するものと考えられます。具体的に絵図面の中で該当するのは、北から順に「御居間」「菊ノ間」「桐ノ間」(松川家資料「本丸御殿図」)、「松御間」「菊御間」「桐御間」(花巻市博寄託「花巻城本丸図面」)、「松之間」「菊之間」「桐之間」(花巻市博物館「御本丸間取絵図」など)です。これらは盛岡藩主御成の部屋です。
(2)発掘成果と絵図面の重ね合わせ
複数種類が現存する本丸御殿絵図のうち、これまでの発掘調査成果とよく適合すると考えられるのは、松川家の「本丸御殿図」です。建物の桁方向が途中で屈曲しているのが特徴で、御殿の改築を伺わせる図面です。
松川家絵図に今回の調査成果を加えて重ね合わせてみると下図のようになります。土台跡の芯々間距離の平均値約1.9メートル(6尺3寸)を基準として合成しています。
この合成図から推定される本丸御殿の規模は、〔東西最大87メートル〕〔南北最大43メートル〕〔床面積1370平方メートル〕程度です(渡り廊下で連結した東西の2棟を合わせて計測したもの)。
次に、各土台跡と間取りとの関係の詳細を図示します。
これによれば、平成30年度調査で検出した【粘土入り土坑】が「御居間」の北辺ラインとその北側の廊下の外周ライン上に位置しており、これらも土台跡に関係する遺構である可能性が高くなったと考えられます。また、令和元年度調査で検出した[中庭]と想定される空間も、絵図の中庭の位置と完全ではありませんが合っています。
その一方、間取りのラインに載らない土台跡が散見されることから、古い時代の御殿の遺構も残っているものと考えられます。
4 まとめ
(1)検出遺構について
本丸御殿の土台跡が多数確認され、御殿南辺部と北西部の位置が確定したことは大きな成果ということができます。これにより、絵図面との対比をとおして本丸御殿の規模推定が可能となりました。一方で、絵図面の間取り線上に載らない土台跡が散見され、建物跡の可能性がある小ピット群も確認されています。このことから、新旧の本丸御殿の遺構が併存しているものと考えられます。また、地形の微妙な高低差からみて、本丸御殿部分は周辺部よりも若干高く整地されていると考えられました。
(2)出土遺物について
遺物の出土点数は、調査面積を広くした割には過去の調査よりも少ないものでした。本丸における出土遺物量は、三之丸と比較すると非常に少ないものです。特に陶磁器に関しては違いが顕著です。三之丸が御給人の生活の場であったのに対し、本丸御殿は主に行政施設であることから、飲食に使用する雑多な食器類が少なかった可能性はあります。しかし本丸御殿に勤める御給人も一定数いることからすれば、ある程度の量の陶磁器は使用されていたはずです。明治の民間払下げの際に陶磁器類も処分されているのかもしれません。
(3)今後の課題について
本丸御殿の西側の様相はある程度判明してきましたが、東側などは未調査であるため、御殿の正確な規模は把握できていません。また、本丸周辺には台所門跡や櫓跡、土塁などの遺構が残っており、その残存状況や構築状況は分かっていません。今後これらの調査を継続して行うことによって、稗貫氏の鳥谷ケ崎城から奥州仕置の改修、そして南部氏の花巻城という変遷を考古学的に説明できるようにしたいものです。
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